これぞジャポニスム!
世界を魅了した浮世絵に出会う
2022.08.05
Written by: TK(TK)
● 憂世から浮世へ、庶民の憧れを描いた浮世絵
浮世絵が生まれたのは江戸時代(1603–1868)。国が安定し、町人文化が花開いた17世紀後半のことでした。その鮮やかな色彩が持つ魅力は海を渡り、今日に至るまで日本を代表するアートとして親しまれています。今回は浮世絵の魅力を満喫できる大阪ならではのスポットをご紹介します。
浮世絵の語源となった「うきよ」とは、浄土(あの世) に対する「この世」を意味しています。長く続いた戦乱の影響もあったのか、最初は辛さやはかなさを嘆いた「憂世」の字が当てられていました。江戸時代になり国が安定し始めると、暮らしにゆとりが出てきた町人を中心にこの世を謳歌しようという風潮が高まり、「浮世」へと変化していったのです。
大阪浮世絵美術館 所蔵:喜多川歌麿『玉屋内小紫・花紫』
浮世絵が題材にしたのは人々の暮らしや娯楽。遊郭の美女や歌舞伎俳優は代表格で、『見返り美人』で知られる菱川師宣、「大首絵(おおくびえ)」と呼ばれる大胆な手法で役者を描いた東洲斎写楽など、数々の人気絵師が誕生しました。浮世絵にはいわゆる一点物の肉筆画と大量生産が可能な木版画があり、後者はかけ蕎麦1杯分、現在の貨幣価値で500円程度とされています。庶民にとって遊郭や芝居は簡単には行けない憧れの場所。そうした世界を気軽に見られるとあって瞬く間に一大ブームを巻き起こしたのです。また、江戸中期以降は旅行も一般に広がり、歌川広重や葛飾北斎らが描いた風景画も人気のジャンルとなりました。
大阪浮世絵美術館 所蔵:歌川広重 京都名所之内『あらし山満花』
1867年のパリ万博をきっかけに、ヨーロッパで「ジャポニスム」と呼ばれる日本ブームが起こり、浮世絵をはじめ数多くの美術工芸品が海を渡りました。印象派の画家であるゴッホやモネ、作曲家のドビュッシーの作品にも影響を与えたことはご存じの方も多いでしょう。しかし、最初は日本から輸出した漆器や陶磁器の梱包材に使われており、それが現地の人の目に留まったという逸話も。折しもヨーロッパは古典や写実主義からの脱却を図り、新たな表現を模索していた頃。浮世絵の自由で斬新な発想は鮮烈な印象を残したのでしょうね。
歴史を学んだところで、今度は浮世絵を常設展示している大阪の施設を巡ってみましょう!
● 彫師・摺師の匠の技をじっくり「大阪浮世絵美術館」
1.四大巨匠の浮世絵版画をじっくり堪能
大阪浮世絵美術館があるのはお買い物客で賑わう心斎橋筋商店街のアーケード内。Osaka Metro心斎橋駅から徒歩約5分のところ。葛飾北斎・歌川広重・喜多川歌麿・東洲斎写楽といった花形絵師を中心に、江戸時代~明治時代当時の作品を間近で見ることができます。関西ゆかりの作品を多数所蔵しているのはここならでは。
大阪浮世絵美術館 所蔵:歌川(五雲亭)貞秀『大坂名所一覧<九枚続>』
大阪の街並みを鳥瞰図的に描いたダイナミックな作品
皆さんご存じの葛飾北斎の冨嶽三十六景『神奈川沖浪裏』『凱風快晴』が常設展示されているのも嬉しいですね。
大阪浮世絵美術館 所蔵:葛飾北斎 冨嶽三十六景『神奈川沖浪裏』
2.開催中の企画展「浮世絵 匠の技」
浮世絵が大衆に広まったのは18世紀頃に木版画の技術が大きく向上したのが理由ですが、それには絵師のイメージを忠実に再現する高い技術を持った彫師・摺師の存在が欠かせません。8月21日(日)まで開催中の企画展では、そうした“匠の技”を間近で見ることができます。
大首絵で髪の毛の一本一本を彫りで表現した「毛割(けわり)」がその一つ。細かいところでは1ミリに2~3本の毛の線があり、彫師の中でも「頭彫(かしらぼり)」と呼ばれる卓越した技術を持った職人しかできなかったそうです。
大阪浮世絵美術館 所蔵:歌川国芳 山海愛度図会「おたのみ申したい 近江石灰」
生え際の細かな線に注目
摺りの技法で見ていただきたいのが「空摺り」。版木に色を付けず、強く擦って紙に凹凸を出す表現で、着物の布地や桜の花びら、雪などの立体感を強調するために用いられています。
大阪浮世絵美術館 所蔵:歌川 広重 名所江戸百景『浅草金龍山』
空摺りの凹凸で雪上の足跡を表現
ほかにも光沢を出す摺り方で見る角度によって模様が現れる「正面摺り」や、雲母や貝殻の粉を使ってキラキラ感を出した「雲母(きら)摺り」など、浮世絵の表現の奥深さを堪能できる作品が紹介されています。美術館ではルーペも貸し出ししているので、隅々まで見てくださいね!
3.江戸時代の作品が買えるミュージアムショップ
ミュージアムショップで人気なのが江戸時代に摺られた浮世絵版画!1万円前後から高いものだと十数万円の作品まで、実際に手に取って選ぶことができます。
● 浮世絵摺り体験ができる「上方浮世絵館」
1.歌舞伎好き必見!上方ならではの役者絵
グリコのネオン看板やくいだおれ人形など大阪らしい風景が広がる道頓堀。かつては芝居の街といわれ、現存する大阪松竹座以外にも数多くの芝居小屋がありました。そんな歴史背景を感じられる施設が、道頓堀からほど近い法善寺のお隣にあります。なんば駅から徒歩約8分、2001年に私設美術館としてオープンした上方浮世絵館は、館長の高野征子氏が収集した浮世絵を3か月ごとにテーマを変えて展示しています。
エントランスの猫ちゃんと一緒に高野館長(左)がお出迎え
見どころは何と言っても役者絵。それも上方(関西)で制作されたものです。写実的で重厚な画風が上方の特徴とのことですが、実際に見ると着物の柄の緻密な表現や歌舞伎の一場面を切り取った絵のリアルさは目を見張るものがあります。歌舞伎好きな人なら、絵を見ただけで「あの場面だ!」とすぐに気づくはず。デフォルメや余白を生かした江戸の浮世絵との違いにも注目してみてください。
菅原伝授手習鑑『寺子屋』で身代わりとして討たれた息子の首を確認する松王丸
2.本格的な4色摺りにチャレンジ
浮世絵の魅力は“錦絵”とも呼ばれるように、独自性に富んだ色鮮やかな多色摺りにあります。絵師が描いた下絵をもとに彫師が版木を彫り、摺師が完成させます。使用する色の数が増えると版木も増えますから、大変な作業ですよね。私も摺師になりきって、作業を体験してきました!
コースは初級から上級まで3つあり、私は本格的な4色摺りができる中級コースを選びました。まずは主版と呼ばれる黒い輪郭線の版木から。墨を“運び”(竹の皮を細かく裂いた刷毛)で版木にのせます。
墨が全体に行き渡ったら、糊をちょんちょんと2か所のせて、ブラシで馴染ませていきます。糊は和紙への定着性を高めるために使うそうです。
いよいよ摺る作業です!馬連(ばれん)で均等に力を加えながら擦っていきます。小学生の頃にやった版画の授業を思い出しますね~。ところで、版木の左手側に2か所突起があることに気づきましたか?これは「見当」といって、紙の位置がずれないようにする目印です。「見当をつける」「見当外れ」といった表現は浮世絵が語源だったんですね。
主版ができたら、残りの3色も同じ手順で摺っていきます。色の面積が小さいものから、大きいものへ。着物の重ねや口紅をズレないようにのせるのは至難の業…。私は紅が少しズレてしまいました。石畳や屋根の緑を広範囲にムラなくつけるのも難しい。職人さんは色を重ねる工程を10回、20回と繰り返すそうですから、いかに高い技術を持っていたかが分かります。
上級者コースではグラデーションを出す「ぼかし」まで体験できます。自信のある人はぜひチャレンジしてください!
※いずれの施設もエレベーター・エスカレーター設備がありません。詳細は公式サイトをご確認ください。
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